先日、私は認定NPO法人21世紀構想研究会の国際交流担当として台湾給食団体の方々をアテンドし、文部科学省を訪問しました。学校給食調査官の齋藤るみ先生に日本の給食についていろいろお伺いするためです。
(左から台湾給食団体の陳儒偉さん、学校給食調査官の齋藤るみ先生、台湾の黃嘉琳さんと筆者)
台湾給食団体のメンバーは、日本の学校給食塩分摂取基準が、小学校では2g未満にした理由について齋藤先生に質問しました。従来は2.5g未満だったのです。
この質問を聞いた瞬間、つい最近全国学校給食甲子園の調理コンテストを取り上げ、NHK総合で放映された「ニッポン知らなかった選手権 実況中」(2月21日夜11時に放映)の中でも、塩分摂取量に言及するワンシーンを思い出しました。調理コンテストに参加する選手は、文部科学省のガイドラインに沿って事前に測った塩分量を料理に投入するシーンでした。
「ニッポン知らなかった選手権 実況中」番組で給食1回の塩分量を言及したシーン
齋藤先生がその理由を話してくれました。厚生労働省は5年ごとに日本人の食事摂取基準を策定しているので、この基準に合わせて学校給食の摂取基準も変えているとのことでした。
日本人の食生活を栄養面からチェック
日本人の食事摂取基準?!こんな基準もあるのかと興味を持ち、調べました。厚生労働省のホームページ1に、確かに日本人の食事摂取基準があり、しかも5年ごとに改訂しています。なぜこのような食事摂取基準が制定されたのか調べると、この基準の起源に関する論文2に辿り着きました。
この論文によると、この歴史は150年前に遡ります。長らく白米を中心とした日本人の食生活が原因で、ビタミンB1 欠乏症である脚気が蔓延していました。そこで国民の健康維持に必要な食事基準を設けようと1877年に、「日本人の保健食料」が策定されました。その後、日本人の栄養必要量の研究が進められ、戦後は低栄養を防ぐための栄養必要量が第一の目的になりました。研究はここから発展して「食事摂取基準」が策定されたとのことです。しかし現在の「食事摂取基準」は低栄養の予防の役割ではなく、その逆で生活習慣病の増加や健康補助食品の普及から、過剰摂取を対応するためになったのです。
塩分取りすぎのリスクを回避
台湾給食団体メンバーが質問した塩分量について調べると、年を追って食塩の目標値がどんどん下がってきています。なぜだろう。
塩分はうまみ成分の重要な一つであるはずです。塩分のうすい料理は、おいしくないというのが普通の味覚です。それでも塩分摂取を下げるのは理由があるはずです。調べてみると、塩分を取りすぎると慢性的な高血圧となり、動脈硬化・腎不全・脳出血・脳梗塞・くも膜下出血・脳卒中・ 心筋梗塞・網膜症などの疾患につながりかねないというのです。
健康をそこなうリスクを避けるために、塩分を抑えるのが日本政府の狙いであり、これこそ世界の中で長寿国家になっている理由につながっていることが分かりました。学校給食で塩分を抑えるのは、もう一つ大きな理由がありました。小学校時代から正しい食習慣をつけると大人になっても健康を保つことにつながるからです。
小学校の給食1食あたり2g未満にしたのは、そのような理由がありました。料理を作る際にうまみを引き出すために、食塩分は簡単に2gを超えてしまいます。しかし学校給食は、塩分を減らしてもおいしさを維持しなければなりません。子どもは正直だから、おいしくなかったら給食を残します。しかし残食の多い学校給食は、献立を作っている栄養教諭の最大の「恥」になります。
(出典:https://www.y-shinno.com/dris-solt-decrease/)
( 出典:https://www.ssnp.co.jp/frozen/238890/)
飲食店の経営者として恥かしながら、この食事摂取基準の存在を初めて知りました。これからは食事摂取基準に合わせた料理のレシピを工夫することが求められていると思いました。
シェフ不在の2ヶ月間、私はほぼ毎日、調理現場にいました。そのとき感じたのは、減塩のニーズが確かにあることでした。しかも多くの場合、若い人ほどが注文する際に「油を控えめに」「塩分を減らしてください」とリクエストしてきます。やはり健康管理に皆さんは神経を使っているのです。
清緑園には新たな挑戦目標が決まりました。その経過と結果は、これからも折々に発信していきます。
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