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密かな帰省

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   先週、中国出張の機会に、密かに実家へ帰った。

 「密かに」というのは、母には帰ることを知らせていなかったということだ。一度も母にサプライズをしたことがなかったので、その時どんな表情を見せるのか、少し見てみたかった。

   事前に友人へお願いし、駅まで迎えに来てもらった。そして友人には、母へ「話がある」とだけ伝えてもらい、一緒に実家へ向かった。

   ピンポーン。

   母が玄関のドアを開け、最初に目にしたのは私の顔だった。

   一瞬、「この人は誰だろう」という表情を浮かべ、その後、戸惑い、驚き、喜び、そして信じられないという気持ちが、次々とあふれてくるように見えた。後で母に「あの時、どんな気持ちだったの?」と聞いてみたが、「うまく言葉では表現できない」と話していた。

   ここまで書いていて、「一度も母にサプライズをしたことはない」という表現に、自分でも少し違和感を覚えた。

   振り返ってみると、私は人生の節目ごとに、自分の進む道を自分で決めてきた。そのたびに、母にとってはきっと大きなサプライズだったのではないかと思う。

   サプライズがあるたびに、私は少しずつ母から離れていったからだ。

   来日したことも、仕事を変えたことも、自分で事業を始めたことも、私にとっては自分の人生を前へ進めるための選択だった。

   しかし、母にとっては、そのたびに息子がさらに遠くへ行ってしまう出来事だったのかもしれない。

   当時の私は、自分が進みたい方向ばかりを見ていた。なぜそうしたいのか、これからどうするのか、母にきちんと説明したこともほとんどなかった。どれほど心配をかけてきたのか、今になっても計り知れない。

   そんな母の気持ちを、少しだけ想像できるようになったのは、私自身が親になったからかもしれない。

   先日、娘から「夏休みに友人と一緒に上海へ行き、中学生時代の友人に会いたい」と言われた。

   正直、少し驚いた。

   きっと私が反対すると思ったのだろう。娘はプレゼン資料まで用意し、なぜ行きたいのか、現地でどのように過ごすのか、これからの計画まで、一つひとつ丁寧に説明してくれた。

   その姿を見て、「私よりよほどしっかりしているな」と感心した。

 私は、自分のやりたいことに対して、母へ理由を説明したことがほとんどなかった。

 娘の話を聞きながら、あの頃の母も、きっと同じように私の話を聞きたかったのだろうと思った。

 今回の帰省で、驚いた母の顔を見て、そしてその後に浮かんだ笑顔を見て、私も嬉しかった。

 これまで私は、母を驚かせながら、少しずつ遠くへ進んできた。

 これからは、母が心配するサプライズではなく、母が笑顔になるサプライズを、もっと届けていきたいと思う。

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