先日、嬉しい出来事があった。
一人の女性のお客様が、お会計の際にこう声をかけてくださった。
「私は今日、渋谷から来ました。」
渋谷? 思わず聞き返しそうになった。山手線で巣鴨まで約20分、駅から店までは徒歩でさらに12分ほど。きっと、乗り換えや待ち時間を含めれば、片道1時間近くかけて来てくださったのだろう。わざわざ時間を割いて来店していただいたことが、何よりもありがたい。
「一昨日に初めて来ました。なかなか味を忘れられなくて、今日も来ました。」
一度の来店で、再び訪れてくださった。それだけでも嬉しいのに、「味を忘れられなかった」という言葉は、作り手にとって何よりのご褒美。
「このお店、チェーン店はないか調べてみたのですが、なかったのですね。なかなか出会えない、懐かしい味でした。」
“なかなか出会えない懐かしい味”。
その一言に、私は胸が熱くなった。もしかすると清緑園の味が、その方の心の中にあるどこか遠い記憶――家庭の食卓や幼い頃の思い出――を呼び覚ましたのかもしれない。
最後に、「またお邪魔させていただきます」と笑顔で言い残し、そのお客様は店を後にされた。
わずか1分足らずのやり取りだったが、その言葉の一つ一つが、今も頭に残っている。たったそれだけの時間で、これほどまでに心を動かされることがあるのだと、改めて感じた。
お会計のとき、「美味しかったです」「また来ますね」といった一言をいただくことは少なくない。それらは、店を運営する私たちにとっての最高の“チップ”である。
お金ではなく、心のこもった言葉のやり取りこそが、店を続ける力になる。
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