先日、一組のお客様が久しぶりに来店された。
母と娘、九州在住の方で、コロナ前は年に一度、必ず巣鴨を訪れ、そのたびに清緑園に足を運んでくださっていた。中華丼が好きで、注文はいつも中華丼であった。
コロナ禍により外出や移動が難しくなり、気づけば五年が過ぎていた。
「もうその店は無いかもしれないと思っていました」
会計のとき、母が嬉しそうにそう言っていた。その表情が、今も印象に残っている。清緑園が変わらずそこにあったことを、心から喜んでくださった。
私は自分の昔の記憶を思い出した。
来日して間もない頃、私は沼袋にある四畳半、風呂無しのアパートに住んでいた。西武新宿線沼袋駅へ向かう途中に、中華料理店があった。店の名は、杏華園である。初めて店に入ったとき、私はとても緊張していた。言葉も習慣も十分に分からなかった頃だった。店主はとても優しく、何度か通ううちに、その店は私にとって、安心して身を置ける場所となった。
そして2017年、十年ぶりにその店を訪ねた。
看板はまだそこにあり、扉を開けることができた瞬間、あの頃と同じ、変わらない笑顔の店主がいた。
「ああ、ここは残っていたんだ」,心の底から、嬉しかった。


おそらく、五年ぶりに清緑園の扉を開けてくださった、あのお客様の心境も、あの時の私と同じだったのだろう。
店とは、ただ料理を出す場所ではない。誰かの人生の途中に、そっと残り続ける場所である。
今日も清緑園の中華丼は、変わらない味で、静かに「おかえりなさい」を用意している。
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