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タクシーで出会う人生の物語

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  先々週に続き、今回は上海出張中にタクシーで出会った運転手さんたちの人生の物語をお話ししたいと思います。

  ある日、上海駅から浦東にある友人の家へ向かうため、アプリでタクシーを呼びました。しかし、アプリの操作に慣れていなかった私は、間違った場所を指定してしまいました。すると、運転手さんから電話があり、「そのまま待っていてください」と優しく言われました。彼はわざわざ車を回して、私の居場所まで迎えに来てくれたのです。

  車に乗ると、車内は温かい雰囲気に包まれており、ふわっと良い香りが漂っていました。聞くと、車内の装飾や香りはすべて運転手さんの奥さんが手がけたものだそうです。座席の後ろには、3色の編み薔薇が袋に入って並んでいました。一輪20元で売っているそうで、奥さんが手作りし、小さな副収入を得ようとしているのだとか。「売れていますか?」と聞くと、彼は「正直、あまり売れません」と笑いながら答えました。

  運転手さんは安徽省の出身で、1991年に上海へ出稼ぎに来ました。現在は本業を持ちながら、少しでも稼ごうと週末や夜の時間を使い、タクシーのシェアリングプラットフォームに登録して副業をしています。そして、奥さんも編み物を作って販売しながら、家計を支えています。「子供にはお金がかかるよ。休みは少ないけど、充実してるよ!」と、彼は淡々と話していました。

   浦東の友人宅を訪れた翌日朝、再び虹橋空港へ向かう際に乗ったタクシーの運転手さんも、興味深い話を聞かせてくれました。彼はもともと上海のIT大手企業で人事を担当していましたが、毎日契約書を抱えて法務部を行き来する仕事に嫌気が差し、思い切って退職。その後は国内を旅しながら、自分のペースでタクシーを運転する生活を選びました。「昔の会社は給料は良かったけど、去年だけで1500人もリストラされたんです。今はどこも生き残りに必死ですよ」と彼は語りました。

   彼が口にした「巻(ジュアン)」という言葉が印象に残りました。これは今、中国で流行している表現で、「成果の望めない激しい競争に巻き込まれる」という意味を持っています。単なる競争ではなく、「競争に参加しないと負けてしまう」という恐怖心から、やむを得ず競争に加わらざるを得ない状況を指す言葉です。

   競争から逃れられない現実の中で、彼は「毎日600元を目標にし、それを達成したら仕事を終わらせる」というスタイルを貫いていました。必要以上に頑張りすぎず、自分のペースで働くことで、人生を楽しんでいるようでした。

  競争から抜け出すか、それとも飲み込まれるか。どちらの道が正解なのかは、誰にも分かりません。ただ、それぞれの運転手が見つけた“自分なりの答え”は、どちらも間違いではないのだと思いました。

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