出張の際、私はできるだけタクシーを利用するようにします。便利さだけでなく、運転手さんとの会話を楽しみ、その土地の美味しい店や観光情報を教えてもらえるからです。そして時には、思いがけない人生の物語に出会うことがあります。先週の上海出張中にも、そんな物語に触れることができました。二回に分けて皆様にお届けします。
今週、タクシーで出会った親子愛をご紹介します。
ある日、用事を済ませた後、虹橋空港近くのホテルまでタクシーで移動しました。車に乗ると、運転手さんが私の東北なまりに気づいたのか、話しかけてきました。中国の東北地方(遼寧省、吉林省、黒竜江省)の出身者は話し好きで、初対面でもすぐに打ち解けられると言われています。きっと彼も私のことをそう思ったのでしょう。
巣鴨で飲食店を営んでいるおかげで、不思議とお客様が自然に自分の話をしてくれることがよくありました。その経験のおかげか、この運転手さんも、何も聞かないうちから自分の人生を語ってくれました。
彼は福建省出身で、二人の子供を持ち、妻が子供たちが6歳の時にがんで亡くなりました。そして、100万元(約2000万円)の借金を残しました。借金を返済し、子供たちを養うために、数年前に上海に出稼ぎに来ました。
「妻が残し100万元の借金を返すのが大変でした、昼夜を問わず、必死に働いてやっと完済しました」と、彼は静かに語りました。それから一人で息子と娘を育て、今では二人とも大学生です。息子は北京の大学、娘が廈門の大学にそれぞれ通っています。彼は今も毎日仕事をして、子供たちにお仕送りしています。そして、子供たちはアルバイトで生活費を稼ぎ、父親の負担を軽減しようとしています。その話をするとき、彼は誇らしげな表情を浮かべていました。
彼自身も驚くほどの努力家です。タクシーの仕事を始めた最初の1年間は車内で寝泊まりし、少しでも生活費を節約したとのこと。今は少し余裕ができたものの、家に帰ってベッドで寝るようになりましたが、1日5時間ほどしか眠れないそうです。それでも彼の語り口は楽観的で温かさがありました。
下車時に、彼から「毎日幸福で、ハッピーでありますように」と祝福の言葉をいただきました。短い乗車時間でしたが、彼の語る親子愛と不屈の精神に心を打たれました。他人への思いやりも感じました。タクシーという小さな空間でも、人生の大きな物語に触れることができるのだと実感しました。
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