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最後の晩餐

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   先日、常連のご夫婦がご来店され、食事のあとスタッフに「引っ越すことになり、今日が清緑園での最後の食事になります。いつもありがとう」と告げられました。約10年近くこの地にお店を構えていると、このようなお別れを何度も経験してきました。清緑園はお客さんのお腹を満たす場所だけではなく、生老病死や喜怒哀楽といったさまざまな人生の舞台にもなっているのだと改めて感じています。

    私はお客様のお酒をあまりキープしたくありません。もちろん、商売としてお酒をキープしていただければ、お客様が再び訪れるきっかけになりますし、つながりを深めることもできます。しかし、数ヶ月が経ってもそのお客様が来店されないと、とても心配になるのです。

    以前、あるご夫婦がよく清緑園にお越しいただいていました。ご主人はとても優しい方で、私が店にいるといつも声をかけてくださり、親しくお話しすることがありました。その方は焼酎の銘酒・黒霧島が大好きで、ボトルをキープされていました。しかし、しばらくの間ご夫婦そろって来店されることはありませんでした。ある日、奥様が一人でご来店され、「旦那がキープしていたボトルを持ち帰りたい」と私におっしゃいました。

    話を伺うと、ご主人は末期の癌と診断され、3ヶ月経たず亡くなられたとのことでした。その瞬間、私とスタッフは言葉を失ってしまいました。ご主人がキープしていた黒霧島のボトルには、いくつかのグラス分が残っているだけでした。奥様は静かに、しかし確かな手つきでボトルを抱きしめるように持ち帰る姿に、私たちは胸が締め付けられる思いでした。それは間違いなく、亡きご主人を抱きしめていたのです。

    このような経験が続く中で、ある日見たドキュメンタリー番組が私の心に響きました。主人公の医者が患者と必要以上の交流はしないと言うのです。その理由は患者との間に情感が生まれ、その患者が亡くなった時にとても苦痛を覚えた経験からそうするようになりました。私も何度か同じような苦痛を体験し、お客様に対応する方法に気を遣ってきました。

    別れの悲しさに慣れることはありません。その悲しみがあるからこそ、出会いや時間の大切さをより強く感じるのです。その瞬間の積み重ねが、私たちの人生を豊かにしているのだと、改めて気づかされます。

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