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羊肉串

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    先日、中国で暮らしていた友人と久しぶりに食事をした。「何を食べるか」と話しているうち、二人同時に口にしたのは「ヤンロウチュアン(羊肉串)!」だった。上野界隈に並んでいる、“ガチ中華”の中から本場ものを食べられる店を選び、久々に串焼きに食らいつき、大満足だった。

   羊肉串は中国全土で愛されている代表的料理で、TOP3に入るだろう。食材も調理方法もシンプルそのもの。ラム肉を金属や竹の串に刺して、クミン、唐辛子、塩などのスパイスで風味を付けて炭火で焼き上げる。

 小さい頃、私はラム肉が苦手だった。ところが父方の親族はラム肉が好きで、よくラム肉の火鍋やラム肉餃子を作っていた。しかし、ラム肉特有の匂いがどうしても苦手で、なかなか食べられなかった。ところが、ある時、羊肉串を勧められて食べたら、「こんな美味しいものがあるのか」と夢中に食べていた。あれからラム肉の火鍋やラム肉餃子も食べるようになった。

   私のふるさとの近隣に「錦州」という都市がある。ここは中国東北地方の入口と言われ、歴史的にも戦略的にもとても重要な都市といわれてきた。ここは串料理の聖地ともいわれている。焼き串の技術がダントツで、「中国で最も美味しい羊肉串は錦州にある」というほどだ。今、日本でも「錦州燒烤」と自称する店が増えているように思うが、やはりいつも実家に帰った時に食べるあの本場の錦州燒烤は格別だ。

 中国の東北地方では「没有啥是一顿烧烤解决不了的,如果有!那就两顿!」という言い伝えがある。「串焼きで解決できない悩みなんてない。もしあるとしたら2回食べればいい!」という意味で、串焼きを囲んで談論すれば、どんな難問でも解決するということらしい。

   この羊肉串は、私の中国での大学生活の最後を締め括った料理でもあった。2002年にFIFAワールドカップは日本と韓国で開催された。その時、私は日本への留学を決め、わずか1年間の大学生活にけじめをつけ、水面下で退学の手続きを進めていた。当時、同じ部屋に十人が一緒に暮らしていた。全員が一人っ子だったので、兄弟のようだった。ワールドカップの試合を十人で一緒に見に行った。場所は串焼きの屋台。若い男女がそこに集まって羊肉串を食べ、ビールを飲み、試合を観戦する。十人はそれぞれ自分の生活費から5元から10元出し合ってビールと羊肉串を楽しんでいた。アルコールに弱い私にいつも皆から「食え、食え」と勧められ、皆より多めに羊肉串を食べていた。時折、「このまま皆と一緒に卒業まで居たいな」と思ったこともあったが、皆と一緒に過ごす最後の時間をしっかりと記憶に刻み、同年10月に日本へ留学のため渡航してきた。

   あれから年月が経ち、兄弟のような仲間たちは卒業後、日本との仕事関係で何度か東京に来るようになった。そのたびに羊肉串の店を選び、一緒にテーブルを囲んだ。アルコールに弱い私だが、社会人になってから鍛えられ、ビールの深みと旨みも知ったので、一杯ぐらい飲めるようになった。

   来日した仲間と乾杯すると「食え、食え」と、しきりに羊肉串を勧めるようになり、羊肉串の魅力に取りつかれた中年になってしまった。

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